Broadcast Bridgeに掲載されたオリジナル記事を許諾を得て翻訳しました。

コンテンツの制作、伝送の両方において、IPを利用することは、デジタル化の最終地点といっても過言ではなく、より優れ、安く、速く、そして自由度があると、私たちは、聞かされてきました。最終的にはそうなのかもしれませんが、そこに到達するまでに、いくつかのチャレンジが残されています.

今年のNABショーにおいても、引き続き、設備や伝送システムのIPへの移行が重要なテーマでした。何百もの会社が各自の専門分野におけるIP機材、ソリューションを大々的にアピールしました。

それでは、IP化に移行する際に、何が鍵になるのでしょうか? 例えば、既存のものを一度取り壊し、新たに築き上げるようなフォークリフト型アップグレードになるのか、それとも何もないような状態からスタートするグリーンフィールド型なるのか? そして、現在私たちが所有する既存の機材を新たなIPインフラに移行して使えるのか? という疑問があります。

IPソリューションは、他のソリューションとどのように差別化できるのでしょうか? あるベンダーのIPスイッチは、他のベンダーのIPスイッチと同じなのでしょうか? どのような機能を我々が探すべきなのでしょうか? そして、最近、COTS (Commercial -Off-The-Shelf)機材を使用した多数のソリューション提案がありますが、果たしてこれらは、実際良い提案なのでしょうか?それとも悪い提案なのでしょうか?

The Broadcast Bridgeでは、IPソリューションへの移行に関する重要な事柄を読者の皆さんにより良く理解していただくために、メディアリンクスの新しいCEOであるジョン・デイル氏に、IPネットワークインフラへの移行に関してインタビューしました。

メディアリンクスは、IP伝送及びインターフェイス技術にかんするいろいろな情報をお持ちで、所有されている設備すべてをIP化にする計画している皆さんにとって、ジョン・デイル氏による業界展望は、とても役立つものと考えています。

The Broadcast Bridge:まず、IP中心の伝送ソリューションに移行しようとしている技術マネージャーの皆さんが直面する基本的な問題とは何でしょうか?

ジョン・デイル: 伝送ネットワークにアクセスするにあたり、現在のベースバンドSDIインターフェイスに依存する方法はすでに時代遅れです。ビデオプロダクション、プレイアウト、伝送のIP中心のソリューションへの移行は加速しています。例えば、新しい中継車の多くは、既にIP化しています。プロダクションセンターは、IPドメイン内にて作動し、標準規格に基づくIP信号を簡単に出力することができるのです。

ベルギーの放送事業者VRTとEBUは“VRTサンドボックス”というR&Dテストラボを局内に作り、IPを使用したデモンストレーションを行いましたが、ここでの相互運用性テストは、すでに適用可能な標準規格を用いてのIPベースの音声とビデオプロダクションの運用フローが、同等のSDIベースインフラよりも効率が良い、ということを証明することが目的でした。

ここでは、現時点でのライブIPプロダクションの費用は、同等のSDIプラントを構築するよりおよそ7%高いことが判明しましたが、これはIPとSDIが混在した機材によるものです。ただ、長期的には、追加費用を上まわるメリットがありますし、IPがソリューションの主流になるにつれ、追加費用自体が確実に少なくなることでしょう。

しかし、すべての方がベルギーの放送事業者のような“サンドボックス”を作り、新しいテクノロジーを試すことはできません。また、簡単にすべてのものを捨てるわけもいきません。ですから、技術者、マネージャーの皆さんは、新しいソリューションを導入する間に、既存の機材を寿命まで並行して使用できるようなスムースな移行プランが必要としています。

The Broadcast Bridge:何社かのベンダーのソリューションは、すべてを一から立ち上げるグリーンフィールド型に向いているように見えます。しかし、ほとんどの施設にはこのような選択肢がありません。フォークリフト型アップグレードを行わずにIPに移行することができるのでしょうか?

ジョン・デイル: グリーンフィールド型での移行が理想ではありますが、必ずしも要求されるものではありません。スムースな移行には、SDIとIPのハイブリットオペレーションを可能とするゲートウエイとIPバックボーンの柔軟性(多くの場合、低価格)を活用することが鍵になると思います。

SDIからIPの移行を3つの重複するコンポーネントに分割することができます。

まずは、既存伝送のSONET/SDHコネクションからIPベースのコネクションに移行することです。次に、SDIとIPメディアの両方を受け入れ、処理が可能な柔軟なゲートウエイを使うことです。最後に、既存のIPルータとスイッチからSDN(Software Defined Networking)またはフローベースのテクノロジーに移行することです。

The Broadcast Bridge:メディアの伝送については、何をソリューションに盛り込むことが必要ですか? 技術マネージャーの皆さんは4K/UHD, HDR, HFR,OTTのような多様性のあるフォーマットに対し、どのように計画を立てれば良いのでしょうか?

ジョン・デイル: 汎用性の高い伝送ネットワークソリューションは、複数のタイプのインターフェイスと機能をサポートする必要があり、圧縮、非圧縮両方のメディアを含む、SDからUHDまでのベースバンドビデオとオーディオシグナルをサポートすべきです。

また、これらのシグナルのIP/RTPバージョンも扱える能力を持たねばならず、最終的には、そのプラットフォームはメディアコンバーター、場合によっては、IPカプセル化のコンバーターとして動作し、複数のシグナルタイプ間での変換をサポートする必要があります。

そこで、ソリューションは、固定した形態というよりも、将来のニーズの変化に応じてアップデートできるように仮想化できることが必要だと思います。

また、管理された帯域保証型サービスのことを忘れてはいけません。今日では、かなり多くの付加的なメディアコンテンツのファイルとその他のデータが、プロダクションの一部として必要で、リアルタイムのビデオまたオーディオと一緒に扱われています。お客様からは、私たちがサポートする様々な放送用ビデオ、オーディオフォーマット、画質、圧縮方法だけでなく、データ伝送の必要性が常に増加しているというご意見をいつもいただいています。

IPへの移行に関するメディアリンクスが持っている様々な情報やソリューションをご紹介したホワイトペーパー“Media Network Migration to IP-Based Transport”をご用意しております。こちらからダウンロード頂けます。

The Broadcast Bridge:今年のNABショーでは、たくさんの会社が独自のIPソリューションを紹介しており、その多くがCOTSルーターとスイッチをベースにしたものでした。これらCOTSルーター、スイッチャーは、高帯域信号の伝送を扱うのに信頼性があるものなのでしょうか? また、COTSプラットフォームは、どれも同じなのでしょうか?

ジョン・デイル: これはユーザーにとって、実に紛らわしい分野です。COTSルーターとスイッチャーをメディア用に使用することは可能ですが、いくつかのとても重要な検討すべき事柄があります。それは、各CTOSルーター、スイッチは、特定あるいは複数のアプリケーション向けにデザインされていますが、一般的には、これらアプリケーションはITベースであり、メディア用ではないからです。

また、これらアプリケーションは、リアルタイムのメディアアプリケーションが必要とするフロー管理、ブロッキング、転送レート、パケットロスそしてシステムタイミングなどが、考慮されていない可能性があります。

メディアアプリケーション用に使用した場合、特別な注意や制限を考慮する必要があります。他にも、パケットロスを避けるためフロー単位のフローマネージメント、転送レートに合わせたスループットの調整、そしてパケットロスを回避する“メモリーキューマネージメント”というようなことが追加の検討事項になるでしょう。

このようにCTOSテクノロジーを使用した多くの装置は、メディアスイッチ、ルーターとしては、おそらく不十分だと思います。これらの装置は、充分に高いレベルのQoSと信頼性を維持しながら、連続するマルチギガビットストリームを適切に伝送、管理する能力を持っていないからです。

放送事業者と制作プロダクションでよく使用される高速なギガビットマルチストリームに対しては、エンタープライズ級のルーター、スイッチでさえも乗り越えなければならない課題を持っているのも事実です。

The Broadcast Bridge:非圧縮シグナルはどうですか? どのように扱うべきですか?

図1 高帯域IP接続を利用してスタジオからリモート放送を取り扱う方法です。 この構成では、制作チームをホームスタジオに配置してコストを削減することができます。(拡大クリック)

ジョン・デイル: 伝送においては、2つの技術的懸案

事項があります。その品質とレイテンシーです。すべてのコンテンツ事業者は、最小限のコンテンツ処理かコンテンツ処理なしで配信されることを望んでいます。メディア伝送において、“Uncompressed, bit perfect, absolutely minimal delay”というフレーズが使われるのは、このためです。しかしエンドポイントと距離によっては、特に1080p あるいは UHD-1 & -2シグナルに関しては、メディアの帯域に膨大な費用が掛かることがあると思います。

一般的に3つのモードがあります。

1.最大帯域を用いての、エンド トゥ エンドでのフル非圧縮。

2.帯域とパフォーマンス/クオリティー間の良いバランスを取ることができる、軽量かつ、超低レイテンシーのコーディング。

3.1フレーム近辺から複数のフレームまでのレイテンシーにおけるよりへビィーなコーディング。フル帯域がないときには、良いトレードオフになります。

これら各モードは、SDIからIPに移行中の異なる時期に使用でき、これら3つを組み合わせることで、移行中の各時期における複数のシグナルフォーマットに柔軟に対応できます。

The Broadcast Bridge:パケットの処理と変更はどうですか?

ジョン・デイル: パケット処理は、フルIPのエンド トゥ エンドネットワークに移行するにあたり最も重要な局面になると思います。セキュリティー、および全体のトラフィックマネージメントと様々なアドレッシングスキームのために、パケットがエンドポイントからバックボーンに、または、一つのネットワークドメインから別のドメインに移動するにあたり、個別のIPパケットが変換される必要が生じます。

通常このようなことは、パケットが、プロダクションネットワークのような、クローズネットワークからバックボーンインターコネクションリンクに移るときに起こります。ネットワークが進化することで、変換する形が変わる可能性はありますが、ネットワークの寿命を通して、何らかの形で適応させる事が要求されるでしょう。

もし、カプセル化の方法がエンド トゥ エンドにおいて一貫していない場合、さらに状況が複雑になる可能性もあります。例えば、SMPTE 2022-6にてサービスがスタートし、SMPTE 2110で終端するというようなことです。

The Broadcast Bridge:そのような機材のインターフェイスはどのような機能を果たすのでしょうか?

ジョン・デイル: インターフェイス装置の主な機能の中には下記のものがあります。

・異なるネットワークアドレス構成を持つネットワーク間での変換、NAT(Network Address Translation )

このプロセスは、IPアドレスとポートアドレスを変換するようなシンプルなプロセスかもしれません。または、IPv4とIPv6間の変換のような更に深く突っ込んだようなプロセスかもしれません。この機能は、放送事業者に貯めておいたニュースフィードを送付するというような、複数のグループがたまにコンテンツをシェアするような場合に便利です。

・ストリームの優先制御とフローマネージメントのサポートを行うためのイーサネット/MACアドレスとVLANタグのインテリジェントマネージメントの供給。

・ユニキャスト、複数のユニキャスト、マルチキャスト接続の管理。

・それぞれの境界点におけるアラーム・トラップとログのマネージメント。ワークフローでエラーが起きた場合、運用チームはエラーのソースを切り分け、修正を即座に行う必要があります。ゲートウエイはイングレス、イーグレス両方向でのストリームのエラー状況を供給する必要があります。

・インターフェイスは、シンプルなIPアドレスまたはVLANだけでなくそれ以上のパケットフィルタリングとフォワーディングができるフローベースのものである必要があります。SDNとの互換性を持つ為に、オープンAPI(Application Programming Interfaces)が、パワフルな新しいツールによって要求される精度の高いコントロールを供給できます。

図2.ルートのスイッチングが可能なIPネットワークでは、複数のロケーションでのリモート放送が可能です。すべてのコンテンツは、セントラルスタジオに送られます。このメリットは、スイッチ可能なバックボーンの利用ができ、オンデマンドでのネットワーク帯域の活用ができることです。(拡大クリック)

The Broadcast Bridge:将来のネットワークは、どのようになるのでしょうか?

ジョン・デイル: 放送事業者、プロダクションセンター、そして全てのメディア設備は、IPベースに移行することは、明らかですが、どれだけ迅速に移行できるか?ということはまだわかりません。しかし、メディア伝送ネットワークは、メディアコンテンツプロデューサーが生成する新しいメディアに対応していくためにも、より迅速な進化が求められることでしょう。

単にSD-SDIとHD-SDIビデオインターフェイスだけでなく、伝送ネットワークは圧縮、非圧縮信号をサポート可能なIPのビデオインターフェイスを持つべきなのです。IP移行する間、ベースバンドビデオとオーディオを伝送する要求は、今後数年続くでしょうから、ネットワークは、SDIとIPとのハイブリッドになるでしょう。

伝送ネットワークは、非圧縮のカプセル化、JPEG XSのようなライトなコーディング、または、JPEG 2000 (VSF TR-01)やH.264の様なよりへビィーなコーディングをサポートする必要があるでしょう。入力オーディオ信号も多種なものになるでしょう。現在のAES3またはAES10シグナルもRCF3190またはAES67にカプセル化されるでしょう。

ビデオとオーディオ信号を同期するためには、ネットワークはPTP (Precision Time Protocol)をサポートする必要があるでしょう。現在のフレームシンクロナイザーは、放送センターにおける位相差の大きいフィードを同期するのに使われますが、IP接続が拡張するにつれ、スタジオにおいて簡単に同期させるために、PTPをパケットのタイムスタンプに使用できます。

そして、繰り返しになりますが、低いレイテンシーの保障された配信、特に一般的に高価値のビデオ/オーディオコンテンツに使用されるヒットレス切替えを用いて、その配信を保護することを忘れてはいけません。

The Broadcast Bridge:この業界のIPネットワークの移行に関し、あなたは何が起こると思われますか?

ジョン・デイル: IPを中心としたネットワークとその対応機材への移行は、不可避だと思います。

そして、この変化に伴い、新しい柔軟性が生まれます。今日のSDIネットワークからフロー単位のコントロールとスイッチバックボーンのSDNによるIPネイティブのアーキテクチャーへの効果的な移行が可能になっていくことでしょう。

ただ、すべての皆さんにとって、IPへの移行が簡単でわかりやすいものになると言っているわけではありません。プロダクションやプレイアウト環境での閉じたネットワーク、あるいはプライベートネットワークでのほうが、より複雑なWAN環境よりIP環境への移行が比較的に容易におこなえることでしょう。

内部構成、外部インターフェイス、サポートしているベースバンドインターフェイスを通して、包括的にIP接続を組み込めるソリューションを探して下さい。また、スタンダードに準拠した方法で非IPの信号をシームレスに伝送できる能力を提供しているインタフェースを確認して下さい。そして今後、新規機能の追加が可能なことも必要です。

このような機材を選択することで、SDIからIPの移行を必要に応じたスピードで行なうことができると思います。また、注意深く計画することで、皆さんが、将来のスタンダード、インターフェイス、プロトコルへの取り組みを保持しながらも、既存のアプリケーションまたはクライアントをサポートし続けることができるでしょう。

図3:メディアリンクスのMD8000は、信号とネットワークのタイプを簡単に変更できる柔軟なモジュラーソリューションです。

The Broadcast Bridge: 最後に、IP移行に直面している技術マネージャーの皆さんへのアドバイスをお願いします。 パニックに陥るべきでしょうか? 一旦立ち止まるべきでしょうか? それとも前に進んでいくべきでしょうか?

ジョン・デイル: 設備マネージャーは、特にサービスインターフェイスとストリームの監視を提供する正しい機器を選択する、あるいはバックボーンテクノロジーを選択する上でのプランを持つ必要があります。また、従前からのビデオまたはデータ伝送だけではなく、IP放送分野において、堅実な実績と評判をもつ経験あるベンダーを選ぶべきだと思います。

最後に、これらの移行するコンポーネントに関して次のことを考慮するべきです。

SDIビデオをネイティブからIPビデオストリームに段階的に移行する計画を立てて下さい。そして、古いSDIテクノロジーを、入力ストリームをパケット化するSDI/HD-SDIインターフェイスを搭載した新しいネットワークエンドポイントに置き換えて下さい。これにより、SMPT2022-6/2そして将来的にはSMPTE2110のようなスタンダードを使用することで、IPバックボーンと互換性を持たせることが出来ます。

時として、顧客から、メディアをIPストリーム化したビデオを直接出力することを求められ、伝送先において、もとのSDIに戻すこともあることでしょう。ただ今後は、IPネイティブ信号が伝送向けにますます供給されることになるでしょう。SDIフォーマットの需要は減少し、SDIインターフェイスは、SDIベースサービスがまだ必要とされる場所に移行され、最終的には需要がなくなることでしょう。